団子状の仔犬団

回文ぽくしたかった…

尊厳ある死とは

祖母が死ぬ間際のこと、いよいよ容体が危なくなったので、母と弟が病院に向かった。

 

祖母がいた病室の周りは、先が長くないように思われる寝たきりの老人ばかりで、ごぼごぼという呼吸音、かすかなうめき声、定期的な電子音が響いていたが、その中で一人だけ大声を上げる老人がいた。

 

「看護婦さーん、ウンコが漏れそうですー」

 

「いいんですかー、ウンコが出ますよー」

 

「ああー、もうだめだ、出るー」


そんなことをずっと喋っていたらしい。
弟がいる間は、看護婦は来なかったそうだ。

 

いや、詳しいことはわからないから言えることはない。
トイレに行っても、用を足せないくらいに衰弱していたかもしれないし、ずっと点滴生活でもう何も出ないのかもしれない。
そもそも、オムツをしていたことも理解してなかったのかもしれない。
田舎の病院に人手が足りてるとも思えない。

 

しかしだ、この老人は、「ベッドの上でウンコを漏らしたくない」という一点を譲らず、恥を捨てて助けを求めていたのだ。
はっきりしない意識の中、「ウンコを漏らしてはいけない」という人間が最初に覚えるプライドを、最後まで守り続けようとしていた。
これは尊厳ある態度と呼ぶべきものではないだろうか。


その後の老人がどうなったか、それは分からない。
おそらくは、そのままお亡くなりになっただろうが、最期まで尊厳を保つことはできたのだろうか、それだけが気がかりである。