団子状の仔犬団

回文ぽくしたかった…

高遠遙一の勝利条件について考える

金田一少年の事件簿という漫画に、高遠遙一という犯罪者がいる。
犯罪芸術家を自称して、完全犯罪を披露するといっては、名探偵である金田一一(きんだいちはじめ以下はじめ)に挑戦してくる変態なのだが、その勝利条件とはどのようなものか。



高遠が関わるストーリーでよくある流れは、下記のとおりだ。
・高遠が誰かに復讐したい人間を見つける。
・高遠が殺人計画を考案し、復讐者に渡す。
・高遠がはじめを招待して殺人事件を見せる。
・殺人計画のトリックおよび犯人を見抜けるか挑戦する。


もちろん、高遠と犯人に勝ち逃げされては後味が悪いので、はじめは毎回犯人を見抜いているが、では高遠はどうなったらはじめに勝ったことになるのか。



仮に、はじめが誤った推理を披露し、誤った犯人を指名してしまったとする。
そのまま真犯人が逮捕されなければ高遠の勝ち、かというとそうはいかない。
なぜなら、そのまま放っておけば誤った推理が真実として扱われ、はじめの勝利として終わってしまうからだ。
高遠が勝つには、はじめの推理が誤っていることを示して勝利宣言をしなければならない。
つまり、指名された犯人の他に真犯人がいることを説明しなければならないが、
それは殺人トリックの一部をばらすということになる。


それなら、超高難易度のトリックを用意して、はじめが推理を一切披露できなければどうか。
この場合、高遠ははじめの推理を否定する必要がないので、トリックをばらさずに勝利宣言できる。
ただし、これにも制約があって、被害者を事故死や自殺に見せかける方法だとうまくいかない。
というのは、はじめが事故死または自殺と判断して推理を披露した場合、高遠はこれを否定しなければならず、他殺である根拠を示してから勝利宣言しなければならないからだ。
やっぱりトリックをばらしてしまう羽目になる。



整理すると、高遠がはじめに勝つには下記のaまたはbの条件を満たし、かつ他殺であることが明白である必要がある。


a:はじめが殺人トリックを解くことができず、推理を披露できない。
b:はじめが誤った推理を披露し、高遠が不備を指摘して(トリックを一部ばらして)勝利宣言をする。



この条件にははじめに有利な部分があって、
もしトリックを解くことができなくても(条件a)、誤った推理を披露してしまえば、高遠からヒントを引き出すことが可能となる(条件b)。
はじめが僅かなヒントから正解にたどり着く、という描写は作中でいくらでもある。
最終的に真犯人にたどり着く恐れは十分にあるだろう。
はじめが推理を間違えたとしても、結局真犯人が逮捕されるのなら、それで勝ったと言えるのだろうか?



このジレンマを解消するために、はじめに殺人の罪を着せて警察に逮捕させる、という方法がある。
これなら、はじめだけは他に真犯人がいることを知っているが、世論や司法は事件は解決したものとするため、
真犯人は安全だ。
しかも逮捕されれば、はじめは十全に捜査できず、殺人トリックを解きづらくなるというメリットもある。
高遠は裁判後に面会して、気持ちよく勝利宣言をすればいい。




実はシリーズ作品の「金田一少年の決死行」では、高遠がはじめに罪を着せている。
なんだもうやってんじゃん! と思ったが、これが上手くいっても勝てたと言えるかは怪しい。


高遠はこの事件で、催眠術をかけられたはじめが殺人を犯した、と誤認させるトリックを使っている。
そのため、物語中盤のはじめは、覚えはなくても自分が殺人をしたのかもしれないと思ってしまう。


もしここで、罪を受け入れて素直に逮捕、服役してしまったら、高遠はどうするつもりだったのか。
はじめとしては、殺人トリックの知恵比べではなく罠にかけられて負けた、という感想しか出ないのではないか。
高遠はそれで満足できるのか。
面会室で勝利宣言をしたところで、「トリックで勝てないからって罠にかけて満足か?」と言われたら何を思うのか。



高遠が勝つには、厳しい条件をくぐり抜ける必要がある。
それでもシリーズが続くうちは、まだ希望はあるはずだ。
なんせまた連載が再開したのだから。
金田一少年の事件簿30th」はイブニングで連載中だよ!